人間は「非効率な仕事」にも最適化できてしまう ― 業務改善を考えていて気づいたこと
- yuji fukami
- 11 分前
- 読了時間: 7分

業務改善というと、「面倒な作業を見つけて、それを速くすること」だと思われがちです。
もちろんそれも一つの側面です。ですが、実際に現場を見せていただくと、それだけでは見つからない改善の種があるように感じています。
今回は技術的な話ではなく、私が日常生活の中でふと気づいたことを出発点に、業務改善を考えるときの一つの視点を共有してみたいと思います。
毎日料理をしていて気づいたこと
私は日常的に、家族4人分の朝食や夕食を作っています。
おそらく5年以上続けておりますが、このような作業を何年も毎日のように続けていると、あるときふと気づくことがあります。「今日は料理をするのが面倒だ」ということ自体を、ほとんど考えなくなっているのです。
朝になれば朝食を作り、時間になれば夕食を作る。やるか、やらないかを考えることもなく、体が自然に動いています。全自動で体が動き、気づいたときにご飯は出来ています。
最初のころは、正直なところ面倒だと感じることもありました。それが今では、面倒という感覚そのものが薄れています。
習慣になると「面倒」という感覚が消える
このとき起きているのは、作業が楽になったというより、人間のほうが作業に適応した、ということだと思います。
繰り返し続けるうちに、判断や迷いが減っていく。考えなくてもできるようになり、心理的な負担を感じなくなる。やがて、その作業を問題だと認識することすらなくなっていきます。
これは料理に限った話ではありません。通勤経路も、朝の身支度も、繰り返すうちに自動化されていきます。
これは人間の優れた適応能力でもある
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。
習慣になること自体は、決して悪いことではありません。むしろ人間が毎日を安定して過ごすための、とても優れた仕組みだと思います。
たとえば、こんなメリットがあります。
毎回「やるかどうか」を判断しなくてよくなる
心理的な負担が小さくなる
作業が速くなる
一定の品質で処理できるようになる
日々のことを安定してこなせる
もし何もかも毎回ゼロから考えていたら、生活も仕事も回りません。慣れる力があるからこそ、私たちは多くのことを並行してこなせています。
仕事でも同じことが起きているのではないか
ここで私が思ったのは、「これは仕事でも同じことが起きているのではないか」ということです。
会社の中には、こんな作業がたくさんあります。
毎朝、決まったExcelファイルを開く
データをコピーして別のファイルへ貼り付ける
毎週、同じ形式の集計をする
毎月、同じ報告書を作る
同じ情報を、複数のシステムへ入力する
決まった相手に、定型的なメールを送る
どれも、何年も続けている方にとっては「いつもの作業」です。
「別に困っていません」という仕事
こうした作業を長く担当している方に、「この作業、大変ではありませんか」と伺うことがあります。
すると、こんな答えが返ってくることが少なくありません。
「別に大変ではありません」「もう慣れています」「いつもの作業なので」
これは、その方の意識が低いということではまったくありません。むしろ、しっかり適応できているという証拠です。
ただ、ここに一つ考えておきたいポイントがあると思っています。
慣れていることと、効率的であることは別
慣れていることと、効率的であることは、実は別のものです。
たとえば、毎日30分かかっている作業があるとします。担当の方は慣れているので、苦痛には感じていません。
けれど、30分を営業日ぶんだけ積み重ねると、年間ではおよそ120時間になります。丸2週間ぶんの勤務時間に近い量です。
本人が「大した作業ではない」と感じていても、会社全体で見れば、決して小さくない時間を使っている可能性があります。
心理的な負担と、業務としてのコストは、必ずしも一致しません。「困っていない」は、「改善余地がない」という意味ではないのだと思います。
業務改善では「不満」ではなく「作業」を見る
こう考えると、業務改善の進め方も少し変わってきます。
単に「何か面倒な作業はありますか」「困っている作業はありますか」と伺うだけでは、本当に見直したい作業が出てこないことがあります。慣れてしまった作業は、そもそも不満として認識されていないからです。
そこで私は、感情ではなく作業そのものを見るようにしています。たとえば、こんな点です。
毎日必ず行う作業は何か
1回あたり、どのくらい時間がかかるか
1日に何回くり返しているか
同じ入力を、何度もしていないか
コピーと貼り付けを繰り返している箇所はないか
毎週・毎月、決まって行う処理は何か
同じデータを、複数の場所へ入力していないか
不満を聞くのではなく、作業を観察する。そうすると、誰も疑問に思っていなかった作業の中に、改善の種が見えてくることがあります。
新しい方法を拒む反応にも理由がある
もう一歩踏み込むと、長く慣れた作業に新しいやり方を提案したとき、こんな反応が返ってくることもあります。
「今の方法で困っていません」「今までこれでやってきたので」「新しいやり方を覚えるほうが面倒です」
これも、新しいものを嫌っている、と単純に判断してはいけないと感じています。
長年の習慣によって、今のやり方がその方にとって一番負担の少ない方法になっている、という可能性があるからです。慣れた手順を変えることには、それ自体にコストがかかります。改善する側は、この点も理解しておく必要があると思います。
今の仕事を否定せず、仕組みへ移していく
だからこそ私は、改善のご提案をするときに、伝え方を大切にしています。
「今までのやり方は非効率です」「こんな作業はやめるべきです」という言い方はしません。そうではなく、「今まで人がやっていた部分を、システムに任せられます」「今の流れを大きく変えずに、この部分だけ自動化できます」という形でお話しします。
業務改善とは、現場の方が長年かけて築いてきたやり方を否定することではないと考えています。
むしろ、人間が無意識に引き受けている定型処理を、少しずつ仕組みの側へ移していくこと。人が仕事に合わせるのではなく、仕組みを人に合わせていく作業だと捉えています。
Excel VBAやGASによる自動化にも通じる考え方
私が普段行っているExcel VBAやGoogle Apps Scriptによる自動化も、この考え方の延長線上にあります。
「この処理を自動化できます」という技術的な部分だけを見るのではなく、その手前で次のようなことを考えるようにしています。
なぜ、この作業が今まで存在してきたのか
実際に、誰が使っているのか
どこまで変えると、現場の負担になってしまうか
今の操作方法は、どこまで残すべきか
自動化することで、かえって使いにくくならないか
同じ「自動化」でも、この視点があるかどうかで、現場になじむ道具になるかどうかが変わってきます。Excelでどこまでのことができるのかは、「Excelって、実はここまでできます」でも紹介しています。実際に作業を観察して自動化まで進めた例は、在庫CSV更新を自動化した開発事例にまとめています。
まとめ ― 慣れている仕事ほど、一度疑ってみる
人間はとても優秀なので、毎日の作業にしっかり適応できます。
けれど、その優れた適応能力があるからこそ、非効率な仕事まで「当たり前」にしてしまうことがあります。本当に長く残っている非効率な作業ほど、誰も疑問に思っていない、ということも起こり得ます。
だから業務改善では、「困っている仕事」だけでなく、「誰も疑問に思わず、毎日当たり前にやっている仕事」に目を向けることも大切だと考えています。
慣れている仕事ほど、一度疑ってみる。
これも、業務改善を見るときの一つの視点なのではないでしょうか。


